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アプリを開いたら、資産評価額の数字が赤くなっていた。マイナス表示の金額を見た瞬間、心臓がきゅっとなった。新NISAを始めたばかりの方から、こうした声をよくいただきます。
不安になるのは、当然のことだと私は思います。給料から捻出したお金が減って表示されているわけですから、平気でいられるほうが珍しい。ましてやニュースで暴落や急落という言葉が並ぶ日は、「このまま持ち続けて大丈夫なのか」「今すぐ売ったほうがいいのではないか」という思いが、頭の中をぐるぐると回ります。
この記事では、投資家であり2級ファイナンシャル・プランニング技能士でもある私が、新NISAで含み損が出たときの考え方を整理します。焦って動く前にやってはいけない3つの行動と、落ち着いて確認すべき3つのポイント。そして新NISA特有の制度上の注意点をお伝えします。なお投資信託や株式は元本保証の商品ではありません。将来の値動きを保証するものではない、という前提で読み進めてください。
含み損は「失敗」ではない。まず状況を正しく把握する
最初にお伝えしたいのは、評価額のマイナスは投資の失敗を意味するわけではない、ということです。もちろん、だから安心してくださいと言い切ることもできません。冷静に現状を切り分けるところから始めましょう。
含み損はまだ確定していない損失
含み損とは、保有している商品の評価額が取得価額を下回っている状態を指します。売却していない限り、損失はまだ確定していません。逆に言えば、売った瞬間にその損失は確定します。ここが判断の分かれ目です。
投資信託の基準価額は日々動きます。数パーセントの下落は珍しくありませんし、市場全体が数十パーセント下がる局面も過去には起きています。今の数字だけを見て「自分の選択が間違っていた」と結論づけるのは早すぎます。
始めた時期によって見え方はまったく違う
積立を始めて数ヶ月の方と、数年続けている方では、同じ下落でも受け止め方が変わります。始めたばかりの時期は、投資元本そのものが少ないため、率としてのマイナスが大きく見えやすい。一方で、積立を長く続けている方は取得価額が平均化されているぶん、相場の一時的な変動で全体が動きにくくなります。
大切なのは、自分がどのくらいの期間で何を目指して投資しているのかを、もう一度確認することです。10年後、20年後を見据えて始めたのであれば、今日の評価額は途中経過にすぎません。
新NISAの含み損でやってはいけない3つの行動
下落局面で資産を大きく傷めるのは、相場そのものよりも、不安に押されて取ってしまう行動であることが少なくありません。特に避けたい3つを挙げます。
1. 不安に耐えられず全部売ってしまう(狼狽売り)
もっとも典型的なのが、下落の最中に慌てて全額売却してしまうケースです。売却した時点で損失は確定します。そして厄介なのは、相場が戻り始めたときに買い直す決断がさらに難しくなることです。「もう少し下がってから」と待つうちに買値より高くなり、結局戻れないまま終わる。この流れは非常によく見られます。
もちろん、生活が立ち行かなくなるほど資金が必要な場合は、売却も選択肢です。ただしそれは「相場が怖いから」ではなく「お金が必要だから」という別の理由による判断です。動機を混同しないでください。
2. 積立の設定を止めてしまう
「下がっている間は積立を止めて、上がり始めたら再開する」という考え方は一見合理的に思えます。しかし、相場の底を正確に当てることは、専門家であっても容易ではありません。止めている間に反発すれば、安く買えたはずの期間をまるごと逃すことになります。
積立投資は、価格が下がっているときに同じ金額でより多くの口数を買える仕組みです。下落局面で積立を止めるのは、その仕組みの効きどころを自ら手放す行為になりかねません。ただし後述するとおり、家計が苦しくて続けられない場合は話が別です。
3. レバレッジ商品や短期値動きの大きい商品へ乗り換える
減った分を早く取り戻したい。その気持ちから、レバレッジ型のファンドや値動きの激しい個別銘柄へ乗り換えたくなる方がいます。これは慎重になるべき行動です。
レバレッジ型商品は上昇時のリターンが大きくなる一方、下落時の損失も拡大します。さらに日々の値動きに連動する設計上、相場が上下を繰り返すと基準価額が目減りしていく特性があり、長期保有に向かないタイプも存在します。含み損を抱えて心理的に追い込まれている状態は、リスクを引き上げる判断をするのにもっとも不向きなタイミングです。
含み損のときに確認すべき3つのこと
行動を起こす前に、点検してほしいことが3つあります。ここが整っていれば、多くの場合、慌てて動く必要はありません。
1. 生活防衛資金は確保できているか
暴落時に売らざるを得なくなる最大の原因は、手元の現金不足です。急な出費が発生したとき、投資資産を取り崩すしかない状態だと、相場が悪いタイミングでも売却を迫られます。
目安として、生活費の3ヶ月から1年程度を現金で確保しておくと、相場の変動に振り回されにくくなります。詳しい考え方は生活防衛資金はいくら必要かで解説していますので、まだ準備していない方は投資額を見直す前にこちらを整えてください。
2. 毎月の積立額に無理はないか
下落で強い不安を感じるとき、その原因が金額の大きさにあることは珍しくありません。生活を切り詰めてまで積立額を増やしていると、少しの下落でも耐えられなくなります。
私は、続けられない金額は適正額ではないと考えています。積立をゼロにするのではなく、まずは金額を下げて継続する。この選択肢を検討してみてください。枠の配分に迷う場合は、成長投資枠とつみたて投資枠の使い分けも参考になります。
3. 投資対象がきちんと分散されているか
特定の国や業種に資金が偏っていると、その分野が売られたときに資産全体が大きく揺れます。全世界株式や米国株式など、幅広い銘柄に分散された指数に連動する商品を軸にしているかどうかを確認しましょう。
ただし分散していれば下がらない、という意味ではありません。世界同時に株価が下がる局面では、分散していても評価額はマイナスになります。分散の目的は「下がらないこと」ではなく、一部の失敗で全体が致命傷を負う事態を避けることです。商品選びの比較はオルカンとS&P500の比較にまとめています。
新NISA特有の注意点。損益通算と繰越控除ができない
ここは課税口座と大きく異なる点で、含み損が出たときこそ知っておく必要があります。
NISA口座の損失は税務上ないものとして扱われる
特定口座や一般口座であれば、ある商品で出た損失を別の商品の利益と相殺できます。これが損益通算です。さらに、その年に相殺しきれなかった損失は、確定申告によって最長3年間繰り越して翌年以降の利益から差し引けます。
しかしNISA口座の損失には、この仕組みが使えません。NISA口座内で生じた損失は、税務上ないものとみなされるためです。課税口座の利益と相殺することも、翌年以降へ繰り越すこともできません。つまり「損を出して税金を減らす」という発想は、新NISAでは成立しないということです。損切りの判断をするときは、この点を必ず前提に入れてください。
売却した枠は翌年復活するが、年間360万円の上限は別途かかる
新NISAでは、保有商品を売却するとその商品の簿価(取得価額)に相当する分の非課税保有限度額が、翌年になって復活します。生涯投資枠1,800万円という枠組みの中で、使った分が戻ってくるイメージです。
ただし、ここに落とし穴があります。復活するのはあくまで生涯の保有限度額であり、1年間に投資できる金額の上限は別に存在します。つみたて投資枠120万円と成長投資枠240万円を合わせた年間360万円という制限は、枠が復活しても変わりません。たとえば500万円分を売却して翌年に枠が戻っても、その年に入れ直せるのは最大360万円までです。復活のタイミングと上限の関係は非課税枠の復活ルールで詳しく整理しています。
「一度売って、安くなったところで買い直す」という戦略を考える方がいますが、こうした制度上の制約があるため、思ったとおりに動けないことがあります。
下落局面が積立に持つ意味と、断定できないこと
積立投資においては、価格が下がっている期間は同じ金額でより多くの口数を購入できる期間でもあります。将来もし価格が回復すれば、安く買えた分が結果的に効いてくる可能性があります。この意味で、下落は積立を続ける人にとって必ずしも悪材料だけではありません。
とはいえ、私は「必ず戻る」とも「長期なら絶対に増える」とも申し上げません。過去の市場が回復してきた事実はあっても、それが将来を保証するものではないからです。投資信託も株式も元本保証はなく、投資した金額を下回ったまま推移する可能性は常にあります。
だからこそ、生活防衛資金を確保し、無理のない金額で、分散された対象に投資する。この3点が守れているかどうかが判断の軸になります。逆にこの土台が崩れているのであれば、相場を読むより先に、自分の資金計画を立て直すほうが優先されます。
まとめ
新NISAで含み損を抱えたときに、押さえておきたい要点を整理します。
- 含み損は売却するまで確定しない。今の数字は途中経過である
- やってはいけないのは、狼狽売り・積立の停止・レバレッジ商品などへの乗り換え
- 確認すべきは、生活防衛資金・積立額の無理のなさ・投資対象の分散
- NISA口座の損失は損益通算も繰越控除もできない。課税口座とは扱いが違う
- 売却分の枠は翌年に簿価ベースで復活するが、年間360万円の上限は別途かかる
- 下落は安く買える局面でもあるが、回復を保証するものではなく元本保証もない
相場が荒れているときに何もしないというのは、実はかなり難しい選択です。それでも、あらかじめ決めたルールから外れないことが、長期投資では大きな意味を持つと私は考えています。数字を見るのがつらい日は、アプリを開く回数を減らすのもひとつの方法です。
不安の正体が「相場」なのか「自分の資金計画」なのかを切り分けること。ここから始めてみてください。最終的な投資判断はご自身の責任において行っていただくようお願いいたします。